読書履歴:失敗の本質 日本軍の組織論的研究 / 戸部良一、他

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2016年9月10日読了。

内容・感想まとめ

第二次世界大戦時の旧日本軍における失敗(敗戦)の事例から、組織における意思決定のプロセスや教育、マネジメントのあり方について考察。

旧日本軍が失敗した大きな要因として最も大きかったと読み取れたのは、その情報感度の低さ。相手との物量の差や、暗号解析等の情報収集を怠り、自らに都合の良い情報だけを拾い、「日本軍は優秀だから勝てる」という根拠のない精神論だけで強大な敵に戦いを挑んだ、ある意味、滑稽な軍幹部の様子がうかがい知れる。

ドラッカーが「経営者の条件」で触れていたように、失敗=国家の存亡が危ぶまれる、組織マネジメントが最も徹底されているべき、軍隊において、それがまったく行われていなかった・行われないとこうなる、という、失敗した組織の事例が分かりやすくまとめられている。

マーカー引いた所(引用・抜粋)

平時において、不確実性が相対的に低く安定した状況の下では、日本軍の組織はほぼ有効に機能していた。しかし、問題は危機においてどうであったか、ということである。危機、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況で日本軍は、大東亜戦争のいくつかの作戦失敗に見られるように、有効に機能しえず様々な組織的欠陥を露呈した。

戦後、日本の組織一般が置かれた状況は、それほど重大な危機を伴うものではなかった。したがって、従来の組織原理に基づいて状況を乗り切ることは比較的容易であり、効果的でもあった。しかし、将来、危機的状況に迫られた場合、日本軍に集中的に表現された組織原理によって生き残ることができるかどうかは、大いに疑問となるところであろう。

戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りをおこしたほうにより好ましい帰結をもたらすといわれる。戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直結する状況を確信をもって予想することができない。相手がどのような行動に出るか、それに対してこちらが対応した行動がどのような帰結を双方にもたらすかを、確実に予測することはできない。(中略)どのような行動(意思決定)が錯誤だったかということは、事後的な帰結に照らし合わせて後知恵によって評価されるからである。また錯誤それ自体は常に組織の失敗をもたらすわけではなく、意図せざる結果として組織の成功にむすびつく場合もある。

本来、作戦計画とは、実施後に生じるおそれのある誤断や錯誤をもみ込んで立てられるべきであった。

いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければならない。目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する。

日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向がなきにしもあらずであった。これはおそらく科学的思考が、組織の思考のクセとして共有されるまでには至っていなかったことと関係があるだろう。

空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後は空気によって決定される。もっとも、科学的な数字や情報、合理的な論理に基づく議論がまったくなされないというわけではない。そうではなくて、そうした議論を進めるなかである種の空気が発生するのである。

日本軍の戦闘上の巧緻さは、それを徹底することによって、それ自体が戦略的強みに転化することがあった。いわゆる、オペレーションの戦略化である。しかし、近代戦においてはこれがつねに通用するわけではなかった。一定の枠組みのなかで、敵の行動が可視的にとらえられ、自軍の行動に高度の統合性を要求されない様な場合においてのみ有効であった。

事実を冷静に直視し、情報と戦略を重視するという米軍の組織学習を促進する行動様式に対して、日本軍はときとして事実よりも自らの頭のなかだけで描いた状況を前提に情報を軽視し、戦略合理性を確保できなかった。(中略)日本軍内部の各級の教育機関でもしだいに、与えられた目的を最も有効に遂行しうる方法をいかにして既存の手段群から選択するかという点に教育の重点が置かれるようになった。学生にとって、問題はたえず、教科書や教官から与えられるものであって、目的や目標自体を創造したり、変革することはほとんど求められなかったし、また許容もされなかった。

日本軍は結果よりもプロセスを評価した。個々の戦闘においても、戦闘結果よりはリーダーの意図とか、やる気が評価された。

一つの組織が、環境に継続的に適応していくためには、組織は環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなければならない。こうした能力を持つ組織を、「自己革新組織」という。日本軍という一つの巨大組織が失敗したのは、このような自己革新に失敗したからなのである。

組織の文化は、とり立てて目を引くでもない、ささいな、日常の人々の相互作用の積み重ねによって形成されることが多いのである。

自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協働を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなければならない。自己革新組織は、組織内の構成要素の自律性を高めるとともに、それらの構成単位がバラバラになることなく総合力を発揮するために、全体組織がいかなる方向に進むべきかを全員に理解させなければならない。