読書履歴:エンジェル投資家 / ジェイソン・カラカニス

Facebookで知人がおすすめしていたので読んでみた。

アメリカでスタートアップ企業に投資を行う、エンジェル投資家が書いた、スタートアップへの投資体験談と成功確率を上げるためのノウハウが満載。Uberへの投資で巨額のリターンを得た投資家として著名な著者だが、本書の内容はよくある成功者の自慢話では全くなく、様々な失敗談と失敗を回避するための経験則がテンポよくまとめられていて非常に読みやすかった。※話し言葉が用いられていたり、文字の大きさが唐突に変わったり、若干クセのある文体なので多少好き嫌いが分かれるかも。

本書に書かれている内容は「投資家」だけに役立つ話ではなく、スタートアップと取引を行う際や、転職先にスタートアップを選ぶ際など、何かをスタートアップ企業に賭ける際の判断基準としも使えると思う。自分には投資家の視点は少し縁遠いので、労働時間の投資先としてどういうスタートアップを選ぶべきか?という視点に置き換えて読み進めた。

特に、18章・19章の「創業者に聞くべき質問」は必読。たしかに、この質問の回答に答えられなかったり誤魔化したりする創業者は信頼できず、距離をおくべきだろう、という納得の質問が並ぶ。スタートアップの立場からすると出来れば誤魔化したい内容で、こうしてあらかじめ質問内容を公開してもなお、まともに回答出来るスタートアップは増えないだろうし、逆に、こうした表に出しにくい情報をオープンに出来る企業に投資や信頼が集まっていくのではないだろうか。

イベント「カスタマーサクセス(CS)×レガシー産業」に行ってきた

イベントレポート『カスタマーサクセス(CS)×レガシー産業〜 彼らはいかにITを受け入れたのか 〜』

こちらのイベントに参加して来ました。

shelfy-event.connpass.com

医療 / 製造 / 建設業界は日本においてIT化が遅れている代表的な業界。 業界ならではの商習慣や目には見えないしがらみ、ITリテラシーが総じて低かったりとレガシー産業にITサービスを浸透させ、顧客を成功へと導くためには多くの労力や施策、サポートを必要とします。いいプロダクトを提供したとしても、生半可なサポートでは浸透しない、それがレガシー産業の大きな特徴といえます。

FacebookのTLに告知が流れて来た時から楽しみでした。イベントの説明の時点で共感出来ることこの上ないw

盛り上がりを見せている”カスタマーサクセス”ですが、B向け、特にレガシー産業や中小企業を対象にした情報はなかなか得られる機会がないため、非常に有意義な会でした。CSに限らず、Sales、プロダクト開発、etc…同じ軸で職種を変えてもニーズがありそう。

イベント・メモ

登壇者紹介

メドレー 小川さん

  • ヘルスケア分野の課題解決(求人、メディア)
  • 「クリニクス」オンライン診療を可能にするアプリ
  • 行動規範「凡事徹底」「未来志向」「中央突破」

アペルザ 武末さん

  • アペルザ:製造業向けITサービス
    • アペルザのミッション「ものづくりの産業構造をリデザインする」
    • 製造業市場:22.6兆円 中間市場:8兆円→これをリプレイスする
    • 製造業におけるEC、マッチング、メディア事業
  • ニューレボの経営顧問
    • ニューレボ:物流のIT化
    • クラウド型在庫管理システム(WMS
    • 受注データと在庫出入庫データを元に機械学習により需要予測

シェルフィー 松井さん

  • 建設業向けITサービス
  • 市場規模:4兆円
  • 過去5年で労働者が30%減少、資材費が高等→今あるリソースの最大化
  • 多重構造による無駄な中間マージン(年間6.9兆円)
  • 商業建築における日本最大級のプラットフォーム

オンボーディング&ハイタッチの手法

レガシー産業のユーザー特性という観点から、導入支援で苦労したこと、またそれをどう解決したか?

  • 小川

    • 営業からCS担当への切り替えがうまくいかない
      • CS担当も必ず1度は訪問する
      • 営業からCSに切り替える前に営業から切り替え後の流れをきちんと説明する
    • CSが訪問することで、事業がスケールしにくくはならないか?
      • →目下の課題。顧客によって対応の濃淡を分ける等の検討はしている
  • 武末

    • クロージングの設定
      • ほっておくとなかなかオンボーディングしない
      • 売上を上げるための商材であるため、特集のタイミングを逃さないよう期限を切って行く
    • CSへの引き継ぎ
      • 営業は外勤ゆえにすぐに対応出来ない、CSは内勤なのですぐに対応できる、とクライアントへ伝えると、CSに連絡してもらいやすい環境が創れる
    • クライアントから連絡が来るようにする為に何か仕組み化しているか?
      • クロージングが重要。特集に向けて〆切を切っておくと、機を逃すと売上があらなくなるため、わからないことがあれば連絡せざるを得ない状況を創れる
  • 松井

    • Salesの時点で、ミッションやビジョンに共感してもらえているかどうか
    • Webからの登録者よりも、営業が口説いた登録者の方がロイヤリティが高い
    • ユーザーの利用ステップを4つのステップに分けて、一つずつステップアップしてもらうようにしている
司会者質問
  • 業界のペインに対してサービス提供しているか?
    • 小川:オンライン診療は「やらなくて良い」サービス。そこにペインが有るわけではないため、サービスが目指しているものへの共感の方が大事

ハイタッチ、Techタッチ、ロータッチはどんな基準で決定しているか

  • 武末
    • Techタッチは基本やらない。基本訪問。
    • ハイタッチでは、クライアントが気づいていない効果を可視化することを行っている(安価なBIツールを利用したダッシュボード機能を提供)
    • 効果があろうがなかろうが、全データを開示し、効果があれば共に喜び、無ければ対策を検討する。顧客と一緒に考えるパートナー。
  • 小川
    • 全クライアントに対してハイタッチを実施。
  • 松井
    • 基本ハイタッチ。
    • 一日3回、登録者のライフサイクルに合わせてコミュニケーションを図っている。
    • ユーザーにログインさせるために、情報を隠す等の手を使っていたが、ユーザーに無駄な時間を使わせていると判断してやめた。
    • ゼンデスク等を使っていたが、オンラインマニュアル等は一切見られない。ハンバーガーメニューがメニューだと思われないため、文字で書く等の工夫もしたが、それでも見ない。
    • メールに全部キャプチャ貼ってテキストで説明しないとわからない。

ユーザーの継続的な利用のために取り組んでいる施策

  • 小川
    • オンボーディングまで4回訪問、公開から2ヶ月後までに予約が入るように提案している。
    • 2ヶ月間予約が無いとほぼ100%解約されるため
    • 患者への案内方法〜オンライン診療までの一連のプロセスについてヒアリング実施、課題抽出→改善提案のサイクルを回している
  • 武末
    • トップライン側に効くサービスと、コスト側に効くサービスとで全然話が違う
    • コスト側のSaaSの場合、オンボーディング〜定着まで、コストをしっかりかけられれば継続率は無視できる(勝手についてくる)
    • トップライン側に効くサービスは効果が出ないとガンガン解約される。出ている効果が他と比べてどうなのか?効果が良いのか悪いのか、といった共通認識を合わせて行くことで期待値コントロールするしか無い。
    • トップライン側に加えて、業務支援サービスを追加することで改善を図っている
  • 松井
    • マッチングサービスであるため、発注者・施工会社それぞれのケアが必要。特に、発注者側には超ハイタッチで接している
    • 発注者側はぼったくられたくないため、受注者側に無駄な労力を強いがち。これが進むと場が荒れる
    • サービス提供者側で受注者側(商品)の質が高いように見せる工夫が必要

組織&チーム作り

初期の運用体制や取り掛かったこと

  • 小川
    • 以前は今以上にハイタッチだった。毎月オンライン面談を行っていた。
      • メリット:チャーンレートは今より良かった
      • デメリット:現場の疲弊、顧客が自走せずCSに甘えがち。顧客満足度は高いがアクティブ率は低いという良くわからない状況に陥った。
    • 毎月の面談をやめ、2ヶ月以内のオンライン予約獲得にフォーカスした
    • 営業からCSへの引き継ぎは顧客情報を「カルテ」として共有している。
    • SalesForceを超カスタマイズし、1社あたり3スクロール分くらい情報を持っている
  • 武末
    • 人員をかけすぎない、オペレーションエクセレンスの追求
    • 前職で500件/月のCS対応を行っていた。その結果、空気を吸うように顧客のことがわかるようになった、運用を突き詰めて考えられるようになった。
    • 初期は営業との連携が大事。上手く行っていないと、オンボーディング・教育コストが高くつくため、営業からサービス導入の目的、背景を「カルテ」として共有している
  • 松井
    • サービス立ち上げ時に、現場に訪問し「現場で何が行われているのか」を徹底的に調査した
    • 現場で調査した内容をQAに反映し可視化したことで、クライアントの対応が行いやすくなった

IT導入のハードルが高いユーザーに向き合うためにチームづくりで意識していること

  • 武末
    • CS対応は全員、元営業担当。クライアントのことがわかっていないと意味がない、クライアントに伝わらない。
    • クライアントのことが想像できるかどうかがものすごく大事。
    • クライアントを教育し、クライアントにサービスや会社のスタンスを理解してもらうことが大事。
  • 小川

    • CS担当一人ひとりがやることが多くタスクフルであるため、CSメンバーがオンボーディング以外の作業に頭も時間も使わない様な環境を提供できるようにしている。
    • 例:アポ取りはアシスタントに任せる、等
  • 松井

    • 雰囲気、環境作り。CSは疲弊するため、話しやすい空気づくり等が意外と大事。
    • ホスピタリティの高いだけでなく、自分は楽したいタイプの人がいないと仕組み化・組織化が上手く進まない

質疑応答

オンボーディング完了は期間の経過なのかどうか

  • 小川
    • 期間でおいている(公開から2ヶ月間)、その後はサポートデスクで対応。
    • 定期的にクライアントから評価を回収、内容に応じて個別にサポートを実施

アラートがならないクライアントのケアはどうしているか

  • 武末
    • ニューレボではログインされていないとヘルススコアが溜まってケアする対象として自動的に上がってくる
    • サービス利用のサポートと、顧客満足度のサポートを分けて、ヘルススコアを2段階に分けて考えて運用しようと考えている
    • 顧客アンケート→Googleフォームで、全体・機能別の満足度調査を実施
  • 小川
    • メルマガ配信を実施。政府の通達内容の解説、他業者の取り組み等を定期的に配信。
  • 武末
    • メルマガめちゃくちゃ重要。レガシーな業界であれば、ITツール利用者、検討者=イノベータとみて間違いない。
    • スタートアップであれば、効果事例や導入事例、サービスのアップデート等は常にあるはず。ステップメール等ではなく、テキストメールの一斉送信で十分。HTMLは非対応の場合がある。

感想

登壇した3社ともに、『クライアントとの向き合い方は訪問を前提としたハイタッチ』『Salesの時点でサービスのビジョンに共感を得られていることが大事』『オンラインマニュアル等のTechタッチは効果が無い』といった、浪花節営業かな?と思うようなことを言っていたのが非常に印象的でした。レガシー産業ならではなのか、スタートアップあるあるなのか。。
特に、メドレー小川さんの『オンライン診療は「やらなくて良い」サービス。そこにペインが有るわけではない』という発言は非常に共感できました。
新規マーケット創出タイプ、既存業務の効率化(ペーパレス化)タイプのサービスは、クライアント側からすると「それが無くても(今は)業務が回っている」状態にあるはずで、その前提の中では、サービス利用後に期待する未来に対して共感が得られない限りサービス導入は期待出来ないし、各社が口を揃えて言っていた『クライアントが何に共感しどういった未来を期待してサービス導入を決めたのかをSalesからCSへ引き継ぐ』ことが出来ないと、その時点でクライアントの期待を裏切ることになり、カスタマーサクセスが実現できなくなる、ということなんだろうな、と感じました。

読書履歴:仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか? / 木部 智之

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2016年11月20日読了。

内容・感想まとめ

普段この手のハウツー本はあまり読まないものの、社内で「面白かった」とオススメされて購入。仕事を早く終わらせるための心構え的な大きな話から、エクセルテクニックなどの細かなことまで、まんべんなく網羅。社会人2~3年目くらい、業務が処理できなくなり出した頃のタイミングで読むと良いかも。

読書履歴:空気の作り方 / 池田 純

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2016年11月7日読了。

内容・感想まとめ

万年赤字だった横濱DeNAベイスターズを黒字化させることに成功した球団社長によるマーケティング、会社経営に関するハウツー本。C向けマーケティングのノウハウを中心に事例を織り交ぜながら、筆者の経営に対する姿勢や考え方をベイスターズが人気球団になるまでのプロセスと共に紹介。空気を創り上げるという意味ではマーケティングも組織運営、経営も同じようなもので、根底にあるのは来場者や従業員の視点で満足度を高めたいという顧客視点を徹底的に追求するスタンスなんだと感じた。

読書履歴:〈新版〉日本語の作文技術 / 本多勝一

 

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2016年10月10日読了。

内容・感想まとめ

トレタさんのブログで『これさえ読めば誰でも「わかりやすい文章」が書ける!かもしれないと紹介されていたのに惹かれて衝動買い。

英語など言語とは異なり、日本語は述語が文章の中心となる言語であるという主張を軸に、述語をいかにスムーズに読ませるかという文章構成のノウハウ・テクニックを「修飾語の順序」「句読点の位置」など九つの章にわたって解説。

読みにくい文章を「翻訳」的文章であるとし、文章の主体がSVである英語やフランス語からそうでない日本語にそのまま訳した場合や、著者の日本語能力の稚拙さによって読者に「翻訳」を求める場合などを例示。

Webサイトに載せる文章や提案書などの読ませる文章を書くことが多く、また、文章を書いているうちに言葉の語順や句読点の位置に迷うことが多くなる自分にとって「こう考えればいいのか」という示唆を与えてくれる一冊。

一部、例文や用語に原著の古さを感じるが、考え方自体は理路整然としてまったく古さを感じない。定期的に読み返して血肉としたい本。

マーカー引いた所(引用・抜粋)

わかりにくい文章の実例を検討してみると、最も目につくのは、修飾する言葉とされる言葉とのつながりが明白でない場合である。原因の第一は、両者が離れすぎていることによる。

修飾語の語順には四つの原則があり、重要な順に並べるとそれは次の通りである。 ①節を先に、句をあとに。 ②長い修飾語ほど先に、短いほどあとに。 ③大状況・重要内容ほど先に。 ④親和度(なじみ)の強弱による配置転換。

符号の中でも決定的に重要で、かつ用法についても論ずべき問題が多いのはテンの場合である。

「わかりやすい文章のために必要なテンの原則」(構文上の原則)をまとめて列挙しておく。 第一原則 長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ。(重文の境界も同じ原則による。) 第二原則 原則的語順が逆順の場合にテンをうつ。 右の二大原則のほかに、筆者の考えをテンにたくす場合として、思想の最小単位を示す自由なテンがある。

構文上高次元のテン(文のテン)を生かすためには低次元のテン(節のテン)は除く方がよい。もしどうしても節のテンが必要になったときは、語順を変形して入れ子をはずせば解決する。

漢字とカナを併用するとわかりやすいのは、視覚としての言葉の「まとまり」が絵画化されるためなのだ。ローマ字表記の場合の「わかち書き」に当たる役割を果たしているのである。

漢字とカナの併用にこのような意味があることを理解すれば、どういうときに漢字を使い、どういうときに使うべきでないかはおのずと明らかであろう。たとえば「いま」とすべきか「今」とすべきかは、その置かれた状況によって異なる。前後に漢字がつづけば「いま」とすべきだし、ひらがなが続けば「今」とすべきである。

送りがなというものは、極論すれば各自の趣味の問題だと思う。ひとつの法則で規定しても無理が出てくる。あまり送らない傾向の人は全文を常にそうすべきであり、送りたい趣味の人は常に送るべきである。「住い」を「すまい」と読ませたり、「始る」を「はじまる」と読ませるのは、読者に一種の翻訳を強制することになりがちだ。やはり「住まい」「始まる」としたい。

文は長ければわかりにくく、短ければわかりやすいという迷信がよくあるが、わかりやすさと長短とは本質的には関係がない。問題は書き手が日本語に通じているかどうかであって、長い文はその実力の差が現れやすいために、自信のない人は短い方が無難だというだけのことであろう。

段落のいいかげんな文章は、骨折の重傷を負った欠陥文章といわなければならぬ。改行は必然性をもったものであり、勝手に変更が許されぬ点、マルやテンと少しも変わらない。

おもしろいと読者が思うのは、描かれている内容自体がおもしろいときであって、書く人が いかにおもしろく思っているかを知っておもしろがるのではない。美しい風景を描いて、読者もまた美しいと思うためには、筆者がいくら「美しい」と感嘆しても何もならない。美しい風景自体は決して「美しい」とは叫んでいないのだ。その風景を筆者が美しいと感じた素材そのものを、読者もまた追体験できるように再現するのでなければならない。

本を読むとき音読する人はほとんどいないけれど、しかし目で活字を追いながらも人は無意識にリズムを感じ取っているのだ。そうであれば、書く側がリズムにあわせて書かなければ読者の気分を乱すことになる。

読書履歴:失敗の本質 日本軍の組織論的研究 / 戸部良一、他

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2016年9月10日読了。

内容・感想まとめ

第二次世界大戦時の旧日本軍における失敗(敗戦)の事例から、組織における意思決定のプロセスや教育、マネジメントのあり方について考察。

旧日本軍が失敗した大きな要因として最も大きかったと読み取れたのは、その情報感度の低さ。相手との物量の差や、暗号解析等の情報収集を怠り、自らに都合の良い情報だけを拾い、「日本軍は優秀だから勝てる」という根拠のない精神論だけで強大な敵に戦いを挑んだ、ある意味、滑稽な軍幹部の様子がうかがい知れる。

ドラッカーが「経営者の条件」で触れていたように、失敗=国家の存亡が危ぶまれる、組織マネジメントが最も徹底されているべき、軍隊において、それがまったく行われていなかった・行われないとこうなる、という、失敗した組織の事例が分かりやすくまとめられている。

マーカー引いた所(引用・抜粋)

平時において、不確実性が相対的に低く安定した状況の下では、日本軍の組織はほぼ有効に機能していた。しかし、問題は危機においてどうであったか、ということである。危機、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況で日本軍は、大東亜戦争のいくつかの作戦失敗に見られるように、有効に機能しえず様々な組織的欠陥を露呈した。

戦後、日本の組織一般が置かれた状況は、それほど重大な危機を伴うものではなかった。したがって、従来の組織原理に基づいて状況を乗り切ることは比較的容易であり、効果的でもあった。しかし、将来、危機的状況に迫られた場合、日本軍に集中的に表現された組織原理によって生き残ることができるかどうかは、大いに疑問となるところであろう。

戦闘は錯誤の連続であり、より少なく誤りをおこしたほうにより好ましい帰結をもたらすといわれる。戦闘というゲームの参加プレーヤーは、次の時点で直結する状況を確信をもって予想することができない。相手がどのような行動に出るか、それに対してこちらが対応した行動がどのような帰結を双方にもたらすかを、確実に予測することはできない。(中略)どのような行動(意思決定)が錯誤だったかということは、事後的な帰結に照らし合わせて後知恵によって評価されるからである。また錯誤それ自体は常に組織の失敗をもたらすわけではなく、意図せざる結果として組織の成功にむすびつく場合もある。

本来、作戦計画とは、実施後に生じるおそれのある誤断や錯誤をもみ込んで立てられるべきであった。

いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければならない。目的のあいまいな作戦は、必ず失敗する。

日本軍の戦略策定は一定の原理や論理に基づくというよりは、多分に情緒や空気が支配する傾向がなきにしもあらずであった。これはおそらく科学的思考が、組織の思考のクセとして共有されるまでには至っていなかったことと関係があるだろう。

空気が支配する場所では、あらゆる議論は最後は空気によって決定される。もっとも、科学的な数字や情報、合理的な論理に基づく議論がまったくなされないというわけではない。そうではなくて、そうした議論を進めるなかである種の空気が発生するのである。

日本軍の戦闘上の巧緻さは、それを徹底することによって、それ自体が戦略的強みに転化することがあった。いわゆる、オペレーションの戦略化である。しかし、近代戦においてはこれがつねに通用するわけではなかった。一定の枠組みのなかで、敵の行動が可視的にとらえられ、自軍の行動に高度の統合性を要求されない様な場合においてのみ有効であった。

事実を冷静に直視し、情報と戦略を重視するという米軍の組織学習を促進する行動様式に対して、日本軍はときとして事実よりも自らの頭のなかだけで描いた状況を前提に情報を軽視し、戦略合理性を確保できなかった。(中略)日本軍内部の各級の教育機関でもしだいに、与えられた目的を最も有効に遂行しうる方法をいかにして既存の手段群から選択するかという点に教育の重点が置かれるようになった。学生にとって、問題はたえず、教科書や教官から与えられるものであって、目的や目標自体を創造したり、変革することはほとんど求められなかったし、また許容もされなかった。

日本軍は結果よりもプロセスを評価した。個々の戦闘においても、戦闘結果よりはリーダーの意図とか、やる気が評価された。

一つの組織が、環境に継続的に適応していくためには、組織は環境の変化に合わせて自らの戦略や組織を主体的に変革することができなければならない。こうした能力を持つ組織を、「自己革新組織」という。日本軍という一つの巨大組織が失敗したのは、このような自己革新に失敗したからなのである。

組織の文化は、とり立てて目を引くでもない、ささいな、日常の人々の相互作用の積み重ねによって形成されることが多いのである。

自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協働を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなければならない。自己革新組織は、組織内の構成要素の自律性を高めるとともに、それらの構成単位がバラバラになることなく総合力を発揮するために、全体組織がいかなる方向に進むべきかを全員に理解させなければならない。

読書履歴:ブラック・スワン(下) 不確実性とリスクの本質 / ナシーム・ニコラス・タレブ

ブラックスワン(下)

2016年8月21日読了。

内容・感想まとめ

予測も出来ない不確実な事象「黒い白鳥」について著者の考えを述べたエッセー的本。上巻が「黒い白鳥」の概念を中心に記載されているのに対し、下巻では「黒い白鳥」の出現を予想しようとする・ないし否定しようとする、哲学や統計学といった学問とそのツールについて徹底的に批判を展開。著者も本文で書いてあるように、批判の部分は読み飛ばしてもOK。

マーカー引いた所(引用・抜粋)

私たちにとって予測は複雑すぎる。それだけでなく、私たちの手に入る道具を全部使っても複雑すぎる。黒い白鳥は捉えどころがない。予測したって無駄だ。

今ある発見はほとんど全部セレンディピティ(ふとした偶然のたまもので良い目に遭える能力)のおかげでできたものだ。「セレンディピティ」というのは、作家のヒュー・ウォルポールが、おとぎ話の『セレンディップの三人の王子』からとってつくった言葉だ。三人の王子は、「いつも偶然とか機転とかのおかげで、もともと探していたわけではないものを発見する」。

ほとんどの予想屋たちは、予測されていなかった発見で大きな変化が起こるのをまったく予測できなかった。そのうえ、発見による変化は、彼らの予測より、ずっとゆっくりしかおこっていない。新しい技術が興るとき、私たちはその重要性を深刻に過小評価するか、深刻に過大評価するかのどちらかだ。

過去にたどった道筋を未来が踏み外すなら、ありうる踏み外し方は無限大だ。これは哲学者のネルソン・グッドマンが「帰納の謎」と呼んだ問題だ。私たちがまっすぐ線を引いて予測を行うのは、私たちの頭の中にまっすぐの線があるからだ。つまり、1000日にわたって数字が一直線に大きくなって来たなら、今後も大きくなり続けるに違いないと私たちは思い込んでしまう。でも、頭の中に非線形のモデルがあるなら、同じ事実を見ても、1001日目には数字が小さくなると思うかもしれない。

私たちは過去の経験を振り返って学ぶことが出来ないということだ。私たちは物忘れがひどく、将来における自分の情緒の状態を予測するとき、過去に予測を間違った経験が活かせない。私たちは、不幸が自分の人生に影響をおよぼす時間の長さをものすごく過大評価する。

黒い白鳥のせいで、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつ、ほとんどの「リスク測度」には欠陥があると認めるなら、とるべき戦略は、可能な限り超保守的かつ超積極的になることであり、ちょっと積極的だったりちょっと保守的だったりする戦略ではない。

お勧めの行動には一つ共通したところがある。非対称性だ。有利な結果の方が不利な結果よりもずっと大きい状態に自分を置くのである。未知なものがわかることは決してない。定義によって未知は未知だからだ。でも、そんな未知でも、自分にどんな影響を与えるかを推し量ることはできる。

結局、私たちは歴史に振り回されている。それなのに、私たちは自分で自分の行き先を決めていると思い込んでいる。私たちには何が起こっているか分からないのはなぜか、まとめておく。(a)知識に関するうぬぼれのせいで、未来を見るのに不自由だから。(b)プラトン的な型のせい。つまり、人は簡略化したものにだまされる。(c)欠陥のある推論の道具のせい