読書履歴:ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法 / エド・キャットムル

ピクサー流創造するちから 2016年8月9日読了。

内容・感想まとめ

ピクサー創業者であり、ディズニーアニメーションスタジオの代表をも務めるエド・キャットムルが、ピクサー創業からスティーブ・ジョブズとの出会いを経てディズニー傘下に入り、「ラプンツェル」や「アナ雪」のヒットに代表されるディズニーアニメーションの再生を果たすまでの時間軸に沿って、経営者として大事にしてきた組織運営、マネジメントに関わる考え方、方針をまとめた本。

「創造的で、かつ、持続可能な組織」という著者が創業以来常に追い続けてきた有るべき会社組織を創り上げるまでの著者の苦闘、創造と破壊の歴史、および、著者の組織運営・マネジメントに対する考え方と、それを実現したピクサーが取り入れて来た仕組みが本筋の話。だが、ピクサーが手掛ける「トイ・ストーリー」や「モンスターズ・インク」といった誰もが知るアニメの制作秘話、ベンチャー企業が陥る創業時の混沌・資金繰りの苦労話・事業のピポット、あまり取りざたされないスティーブ・ジョブズの人間味あふれる一面、などなど、脇を彩るエピソードの数々だけでも一冊の本が書けそうなほど、心躍るストーリーにあふれる。

元々、工学系の学者タイプのバックボーンを持つ著者らしく、経営者の著書にありがちな主観的・感情的に記述に陥ることなく、客観的・論理的に考えがのべられており、華やかなアニメーション制作の挿話と絶妙なコントラストを生んでいる。

ディズニーによる買収を経て、いわゆる大企業病に罹る兆候を察した経営陣が、それを打破すべく大きな一手を打ち、大成功を収め、再び社員一丸となって真に創造的な企業として走り出までの何かが変わり、動き出すまでのワクワク感と、その土台をつくり庇護者となったスティーブ・ジョブズとの別れを描いた終盤は、さすがピクサーのストーリー!と思わせるほど、ページを繰る手が止まらず、読んでいてアツいモノが込み上げて来る展開。

今年読んだ本の中でベスト。何度も読み返したくなる一冊。

 

マーカー引いた所(引用・抜粋)

私が思うマネジャーとしての自分の仕事は、豊かな環境をつくり、それを健全に維持し、それを妨げるものに目を光らせることだ。誰にでも創造性を発揮できるポテンシャルがあり、それがどのようなかたちであれ花開くのを後押しすることは心底尊いことだと思う。

マネジャーは、手綱を引き締めるのではなく、緩めなければいけないと思う。リスクを受け入れ、部下を信頼し、彼らが仕事をしやすいように障害物を取り除く。そしてつねに、人に不安や恐怖を与えるものに注意を払い、向き合う。それはマネジャーの義務だ。

困難な問題には、多くの知性を同時に集結して解決にあたったほうがいい。それを認めないのはばかげている。

無知と、旺盛な成功欲求との組み合わせ以上に、短期間での学習を促すものはない。

誰かが製造ラインに問題を見つけたら、それがどの階層の人であろうと、組み立てラインを止めるべきであり、それを認められるべきだ(中略)作業者は、同じ作業をただ繰り返すのではなく、変更を提案したり、問題点を指摘したり、そして私にはこれが何より重要だと思われたのだが、壊れた箇所を直す役に立ったときに誇りを感じることができた。それが継続的な改善につながり、欠陥を洗い出し、品質を向上させた。(中略)トヨタ自動車は紛れもない階層組織だが、その中心には民主的な信条があった。つまり、責任を持つことに許可はいらないのだ。

私がそれまでピクサーが成功してきた理由だと思っていたことの中に、後で勘違いだとわかったことがいくつかあったが、間違いようのないことが一つあった。それは、持続する創造的な起業文化を築く方法を見つけること ――率直さ、卓越紗、コミュニケーション、独自性、自己評価といったものが重要だと口先で言うのではなく、それがどれほど不快な思いを伴っても、それを有言実行すること―― は、片手間ではできない。日々努力のいるフルタイムの仕事だ。

イデアをきちんとかたちにするには、第一にいいチームを用意する必要がある、優秀な人材が必要だというのは簡単だし、実際に必要なのだが、本当に重要なのはそうした人同士の相互作用だ。どんなに頭のいい人たちでも相性が悪ければ無能なチームになる。したがって、チームを構成する個人の才能ではなく、ちーむとしてのパフォーマンスに注目したほうがいい。メンバーが互いを補完し合うのがよいチームだ。

品質のよさを表す「卓越性」は、自分で自分のことを言うのではなく、人から言われるべき言葉だ。言葉がきちんとその意味どおりに、それが象徴する理想どおりに使われていることを確認するのはリーダーの仕事だ。

「品質は、最良のビジネスプランである」。品質は、行動の結果ではなく、どう行動するかを決める前提条件であり心の持ちようだ。品質が大事だと誰もが言うが、言う前に実行すべきだ。品質は日常の一部であり、考え方であり、生き方であるべきだ。

何を吟味するかによって規模や目的が異なるが、つねになくてはならない要素が率直さだ。絵に描いた餅ではだめで、率直な議論という批評的な要素なしでは、信頼は生まれない。そして信頼なしでは創造的な共同作業はできない。

失敗は、対処のしかた次第で成長するチャンスになる。ただ、そういうと、まちがいは必要悪だととられる。まちがいは必ずしも悪ではない。悪でもなんでもない。まちがいは、新しいことを試みたすえの当然の結果だ。けれども、失敗を受け入れることが学習において重要だといくら言っても、それを認識するだけでは不十分なこともわかっている。なぜなら失敗は苦痛を伴い、それが失敗の価値を理解する妨げとなっているからだ。失敗のいい点と悪い点を分けて考えるためには、苦痛という現実と、その結果として得られる成長というメリットの両方を認識する必要がある。(中略)恐れから失敗を避けようとする組織文化では、社員は意識的にも無意識的にもリスクを避ける。そして代わりに、過去にやって合格点だった安全なことを繰り返し行おうとする。その成果は派生的なものであり、革新的なものではない。けれども、失敗のプラスの側面を理解できるようになれば、逆のことが起こる。

新しい試みを恐れる人も多いが、本当はその逆のアプローチをとるほうがはるかに怖い。リスク回避も度を過ぎると、企業の変革を止め、新しいアイディアの拒絶につながる。それは見当違いのはじまりだ。企業が落ち目になるのはほとんどそのためであって、限界に挑戦したり、リスクを負ったり、失敗を恐れなかったからではない。失敗する可能性のある事に取り組むのが、本当に創造的な起業なのだ。

社員は賢い。だから雇ったはずだ。だったらそれらしく扱おう。歪曲された不正直なメッセージは見破られる。上司が計画だけ説明して理由を説明しなければ、部下は本当の意図は何かと怪しむ。隠れた意図はなくてもそう思わせているということだ。どのような思考プロセスで解決策に至ったのかを説明すれば、部下は、憶測ではなく解決策そのものに注意を向ける。

問題を一つ残らず防ごうとするのではなく、スタッフの善意を信じ、彼らが問題を解決したいと思っていると信じるべきだ。実際に、そう思っている場合がほとんどなのだから。責任を与え、失敗させ、自ら解決させる。恐れには必ず理由がある。リーダーの仕事はその理由を見つけて対処することだ。マネジメントの仕事は、リスクを防止することではなく、立ち直る力を育てることなのだ。

不健全な組織文化では、自部門の目的が他部門の目的に勝れば、会社はもっと儲かると思っている。健全な組織文化では、相対するニーズ間のバランスが重要なことを全部門が認識している。部門間の相互作用 ―――優秀な社員が明確な目標を与えられたときに自然発生する駆け引き――― がそのバランスを生み出す。しかしそれは、バランスの実現が会社にとって重要な目標であることを理解して初めて起こる。(中略)対立するのは健全なことだと社員に理解させるのは、マネジメントの仕事だ。それがバランスを実現させる道であり、長い目で見て皆の利益につながる。

「見えないものを解き明かし、その本質を理解しようとしない人は、リーダーとして失格である。(中略)自分が見て知っていることが不完全だと認めるならば、その認識を高める努力をするべきだろう。ギャップを埋める努力、と言ってもいい。

本来は効果的であるはずの階層制度が、進歩を妨げるものに変わってしまうきっかけは何か。それは、自分や他人の価値を無意識に序列の上下と同一視する人が増えたときにそうなる。そのため、上司の心証をよくすることに全精力を注ぎ、組織図上自分より下の人には扱いがぞんざいになる。(中略)人は自分が実際に見ている以上に見えていると思っているため、自分で自分の視界を歪ませていることに気が付いていない。

初心を捨てることで、人は何か新しいものを作り出すよりも、前にやったことを繰り返すようになる。言い換えれば、失敗を避けようとして失敗しやすくなる。過去や未来に関する自分の思いや考え方に邪魔されることなく、この瞬間に注意を向けることが重要だ。なぜかと言うと、それによって人の意見の入る余地が出来るからだ。人の意見を信頼できるようになり、さらに重要なことに、それが聞けるようになる。

創造する企業のマネージャーは、「そうすれば社員の知恵を生かせるか」つねに自分に問う必要がある。(中略)創造的な仕事をする人は、挑戦が決して終わらないこと、失敗は回避できないこと、「ビジョン」が多くの場合幻想であることを受け入れなければならない。しかし小津時に、つねに安心して本音を話せると感じられることも必要だ。

物事は変わるべくしてつねに変わっている。変化に伴って必要になるのが、適応であり、新鮮な考えかたであり、ときにはプロジェクトや部署や部門や会社全体の完全な「再起動」だ。

未来は到達点ではなく一つの方向だ。だから正しい進路を決めるために日々努力し、間世田ら修正するのが我々の仕事だ。もう次の危機がそこの角まで来ているのを感じる。活気に満ちた創造的な文化を維持するためには、一定の不確実性を恐れてはならない。天候を受け入れるように、それを受け入れなければならない。不確実性と変化は、人生につきものであり、そこが楽しいところでもある。取り組むべき課題が現れれば、必ずまちがいはまた発生する。それが現実だ。我々の仕事に終わりはない。問題はつねに起こり、その多くは隠れて見えない。それらを明るみに出し、たとえそれによって葛藤が生まれようとも、その多くは隠れて見えない。それらを明るみに出し、たとえそれによって葛藤が生まれようとも、それらの問題における自分の役割・責任を問わなければならない。(中略)社員に創造性を発揮させるためには、我々がコントロールを緩め、リスクを受け入れ、社員を信頼し、彼らの行く手を阻むものを取り除き、不安や恐怖をもたらすあらゆるものに注意を払わなければならない。これらをすべて実践しても創造的な組織文化を管理することは必ずしも楽なことではない。けれども、目指すべきは楽になることではなく、卓越することなのだ。